言いたい放題映画レビュー*ブロークバック・マウンテン
f0122159_19391619.jpg人を愛する辛さ苦しさに胸が張り裂けます。

原 題 BROKEBACK MOUNTAIN(05年米)
監 督 アン・リー
原 作 アニー・プルー
脚 本 ラリー・マクマートリー 、ダイアナ・オサナ
音 楽 グスターボ・サンタオラヤ
出 演 ヒース・レジャー 、ジェイク・ギレンホール 、ミシェル・ウィリアムズ 、アン・ハサウェイ


1963年、夏。
季節労働者として雇われたイニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)。雄大で美しい山並、画面を埋め尽す羊達の群れ。夏だというのに凍えるような寒さ。そんな厳しい「山」での生活で、頼りになるのはお互いだけ。憂さを晴らすのも愚痴るのも、聞き手のいない独り言に耳を傾けてくれるのも。。。
自己表現が苦手で寡黙なイニス、根っから天真爛漫そうなジャック。厳しくも美しい大自然で過ごすうちに、この好対照な二人に深い絆と友情が生まれる。心身ともに凍える晩、ジャックの衝撃的な誘いがイニスの心の箍(たが)をはずし、その後の二人の人生を大きく左右する夜となってしまう。。。

ワイオミング州ブロークバック・マウンテンを舞台に、二人の男の20年に渡る逢瀬と葛藤を描いた人間ドラマ。同性愛をテーマにしていますが、いわゆる禁断の世界を覗き見るといった厭らしさは、この映画にはありません。愛すれば愛するほど生じる苦しみと葛藤、切なさを、荘厳で雄大な大自然に重ね映した叙情詩です。

厳しくも雄大で美しく、大きな懐でもって二人を包んでくれる現実の理想郷、ブロークバック・マウンテン。
再びかの地へ行ってみないか?と誘ったのは、ジャックの方でした。
イニスは現実の日々を受け入れる(あるいは受け流す)ことで精一杯という日々を送っていたため、そんなユートピアがかつてあったことすらも過去のこととして追いやっています。それはまるで自分の人生が自分のものではなくなったかのような現実を受け入れ、心身ともにすり減っていくことに耐えるような生活です。
が、そこにジャックからの便りが来たことで、二人はかつて過ごした天国での日々に現実逃避するかのように、その後20年にも渡って逢瀬を重ねてゆくのです。
20年間のあいだで共に過ごした時間はごく僅か。離れている時間が長いからこそ、より一層相手を求め、求める自分に苦しみます。
しかし、二人の関係を終わらせるピリオドはいきなり打たれました。ジャックの訃報によって。

人生は辛く厳しいもの、そんな人生観でいるイニスにとって、ジャックは人生で初めて得た相棒だったでのしょう。自己表現が苦手で不器用、過去のトラウマと倫理観(時代背景と保守的な土地柄含む)ゆえ、人生の軌道を修正できないイニス。
変えられたかもしれない人生、変えられなかった現実。その狭間で苦しむイニス。
そんな彼が一度だけジャックに思いの丈をぶつけるシーンには、胸が締め付けられるどころか張り裂けてしまいますね。
「お前さえいなければ」という言葉とは裏腹に、ジャックがいなければイニスの人生は乾ききってしまう、ということを彼自身が一番良く知っているのです。
ジャックも同様です。むしろジャックの方が、危うかったかもしれません。
彼はそこそこの器用さと対面の良さで人並み以上の生活を手に入れますが、それは男のプライドを義父母に売り渡したような生活であり、職場でも家庭でも居場所がありません。イニスがいない寂しさを他の誰かで紛らわそうとしますが、そうすればするほど、それがイニスではないことを思い知ることとなり、改めて深く強くイニスを欲するです。

イニスとジャック。
二人が「生」を実感できるのは、かつて過ごしたあの山、ブロークバック・マウンテンだけ。
それが架空の理想郷と思い込んでいたジャックの妻。しかし現実にある場所と知って、言葉を失っていましたね。イニスの妻もジャックの妻も、自分らが心から愛されてはいないということに薄々気がついていながら、実証ともなうと打ちのめされてしまうものです。やり切れないです。
特にイニスの妻アルマは、彼等の熱い抱擁を目の当たりにしながら、彼女が離婚に踏み切ったのは「子供を生まないのであれば、お前は必要ない」というイニスの冷たい一言でした。
そこに愛情のかけらもないことを感じ、イニスの元から去ってゆくのです。

イニスもジャックも「普通」でありたいと努力しました。
いわゆる「一般人」のようでありたいと。
でも結果は虚しく、多くの人を傷つけてしまった。。。

イニスが山で無くしたと思っていたシャツが、ジャックのクローゼットから出て来たシーンには泣けましたねぇ。。。あの日、悪ふざけが嵩じて怪我をしたイニスの血と、山の泥がついたまま、大切に保管されていたシャツ。たった一枚のあのシャツが出てきたことで、ジャックがどれだけイニスを深く愛していたか、観客は改めて知らされるのです、イニスと共に。
ジャックは深く深くイニスを愛していた。イニスが思っていた以上に。そして観客が思っていた以上に。

(人目につかない)クローゼットの扉の裏に貼られている山の絵葉書。
二人の絆は、ジャックの死によってより強く深く永遠なものになってゆきますが、それが永遠に日陰の恋であることを象徴しているかのような演出に、最後の最後までやられてしまいました。

<余談>
映画を観た後、「主人公のその後の人生」に思いを馳せ、気が遠くなってしまう、という映画でした。映画を観てこういった状態になるのは本当に久しぶりで、この状態から抜け出るのに、2・3週間はかかりましたねぇ。心ここにあらず、イニスはその後どうやって暮らしていったのか?どんな人生を送ったのか?などと延々と考えてしまいました。
そしてどういう思考回路だったのか、その後のイニスを探る作業として「ブラザー・グリム(テリー・ギリアム監督作品)」を勧賞(笑)。「なぁ〜んだ、けっこう楽しくやってんじゃん?」と無理矢理にも自分の気持ちを落ち着かせた次第(笑)。いや、こんなことでもしない限り、気持ちの落ち着かせようようがなかったまでで。それくらいにブロークバック山から下山するのは困難だったというワケです、はい(笑)。
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by pugslife | 2007-03-07 19:40
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